地下書庫に憩う日々

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世界が終わった後の世界 / シップブレイカー

シップブレイカー パオロ・バチガルピ著/田中一江訳 早川書房

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF) 

 ねじまき少女で話題をさらったパオロ・バチガルピの第二の長編SF小説。前作はタイが舞台だったが、シップブレイカーでは近未来のアメリカで物語が進行していく。石油資源が枯渇したのち、温暖化による気候変動の脅威にさらされ、現在の社会・経済状況が一変してしまった世界観は、どちらの物語にも共有されている。主人公の少年ネイラーは、前時代の遺物である巨大タンカーの廃船から貴重な金属を回収する廃物回収業(シップブレイカー)としてさして将来の希望をもてずに生活していた。今はまだ体が小さいので、その小回りの良さを使って狭い船内に入り込み金属を回収してくることができるが、成長してその仕事ができなくなれば解雇されてしまう。その後は重作業クルーになれなければ生きていく糧をえることはできない。ある日ネイラーが巨大ハリケーンの後、シップブレイカー仲間のピマと沖合の小島に渡ってみると、嵐に巻き込まれて難破した高速船が打ち上げられており、中には黒髪と黒い目をもつ美しい少女が瀕死の状態で横たわっていた。この少女が実は巨大企業「パテル世界運輸」の跡取り娘で、経営者親族間の内紛を避けて逃げている途中だった。浜辺のギャング集団や追手の親戚を避け、彼女を水没都市オーリンズ(いまのニューオリンズ)の味方の元に無事届けようとして、ネイラーは自分の運命を大きく変える冒険をすることに。

 YA向けのSF小説ということもあり、とても読みやすく素直に楽しめる物語になっていた。逆に、物語の筋にはやや物足りない感があったし、後半はとても駆け足に進行して「この残りページ数でどうやって決着つけるんだろう??」と心配になったほどだ。でも、小中学生のころに夢中で本を読んだ感じがよみがえってきて、とても良い読後感だった。ネイラーが抱いている将来の希望が感じられない浜辺の生活に対する嫌悪感やそこから抜け出して外の世界に行きたいという渇望感とかは、なんとなく昔感じていた気分を思い出させるし、金持ちで高慢ちきだけど、とびきり綺麗な女の子と、冒険を続ける中でだんだん打ち解けてきて仲良くなるなんて、なんか中学生のころにしていた妄想みたいなかんじがする(笑)。ただ、話の筋の明快さとは異なり、彼らを取り巻く近未来の世界観は作者が前作から作り上げているもので、この物語の印象に深く影響している。石油資源が激減して大部分の人が前時代のような豊かな生活を送れなくなり、超巨大ハリケーンなどにおびえながら生活している。多くの都市が衰退し、打ち捨てられたり、温暖化による海面上昇で海の底に沈んだりしてしまった、いわば「世界が終わった後の世界」の感じが丁寧に描かれている。加えて、前作から登場している遺伝子改変を受けた生物(シップブレイカーでは半分犬のような人「半人」)も、この作家の作品にたびたび登場する重要な要素みたいだ。それは、科学技術の行きつくはてのディストピア的世界観を象徴する一方、人間の自由意思や生命の力強さへの希望を示すという二面性を与えられていると思う。

 おりしも今日のグーグルのトップニュースは、ロシアが地球温暖化で可能となった北極海航路を行くための世界一の原子力砕氷船建造を計画しているというものだった。現実の世界と以外にも近くでつながっているようなバチガルピの物語は、不気味ながらも魅力を持っていると思う。